心理学「脳」を知る 爬虫類脳(安全意識)

本書の全ての起点となるのが本章、心理学『脳』を知るです。

なぜ、脳の知識が必要なのか。
答えは
「人の行動は全て脳が司っている」
からです。

理想の組織づくり、理想のリーダーになるにあたっては、様々な課題が立ちはだかり、解決していかなくてはなりません。

では、その課題、どこから生れてるのでしょうか。
課題は全て人の行動(思考)から生れてきます。
全て、です。

では、その課題を解決するにはどうしたらいいのでしょうか。
課題の原因を知ることから始めることです。
原因を知らずして解決策は見出せないからです。

本章を理解することで、以下の問いにロジカルに答えることができます。

なぜ人は面倒いと感じるのか?
なぜ人は怒るのか?
なぜ人は人の目を気にするのか?
なぜ人は成長したいと考えるのか?

それでは、第一章心理学「脳」を知る、始めていきましょう。

「脳の三位一体説」

はじめに

脳をテーマとした書籍はたくさんありますが、本書では1960年代にアメリカの神経科学者MacLean博士が提唱した「脳の三位一体説」を用います。

理由は「脳」を理解する上で、本説が最もシンプル且つ、分かりやすく表現されている事と、本書の目的が理想の組織づくりであり、脳科学専門レベルの知識を必要としていないからです。

脳の三位一体説概要(3つの脳)

脳の三位一体説の概要

「人間の脳は三階層で成り立ち、役割の異なる3つの脳が一体となり機能している」

三階層【3つの脳】

脳の三階層とは
①爬虫類脳(ワニ)=原始的爬虫類
②哺乳類脳(ウマ)=旧型哺乳類
③人間=新型哺乳類
です。

では、それぞれの脳の役割を詳しく見ていきましょう。
「爬虫類編」スタートです。

爬虫類

爬虫類脳の役割

爬虫類脳の役割は生命維持です。

人間を含む動物にとって最も大切なもの、

それは「命」です。

爬虫類脳は、その最も大切である命を守る、生命を維持する重要な役割を担っており、脳幹、脊髄など脳の一番奥に位置しています。

具体的には、心拍、呼吸、体温調節、危険に対する反射行動などを担っています。
又、食欲、睡眠欲、性欲などの「欲」も爬虫類脳に影響されています。

爬虫類脳を一言で表現するならば「生きていく為の脳」です。

爬虫類脳の特徴

爬虫類脳の大きな特徴は3つです。

①無意識(本能)
②防衛
③現状維持

それぞれの項目を説明していきます。

無意識(本能)

爬虫類脳が担っている機能は全て無意識です。

呼吸や心拍、体温調整などは日常生活において意識することなく機能していますよね。
又、危険に遭遇した時、反射的に体が動くのも無意識ですね。

例えば、
熱い物に触れた時とっさに手を離す行動。
車にひかれそうになった時、とっさに足を止める行動。
もっと細かいところでいうと、瞬きや目にゴミが入りそうな時に目をつぶる行動など。
これらの行動は全て無意識です。

爬虫類脳は無意識で本能的な行動を私たちの体に指示してくれている脳なのです。

もしも、動物に爬虫類脳がなかったら、生まれて10分も経たずに死んでしまいます。
そう考えると爬虫類脳さまさま。
感謝ですね。

防衛本能

爬虫類脳2つ目の特徴は「縄張りに対する防衛本能が強い」です。

自分の縄張りに敵が近づいてきて、敵から攻撃を受けてしまうと命を落としてしまう危険性が高まるので、近づいてきた敵に対して反射的に行動をとるというものです。

これもまた生命を維持する上で極めて重要な能力です。

人間に例えるならば「パーソナルスペース」にあたります。
知らない人が自分に近づいてきた時、無意識に距離をとるのは防衛本能が働いているからです。

満員電車でストレスを感じるのは爬虫類脳の防衛本能に起因しているのですね。

現状維持

爬虫類脳3つ目の特徴が「現状を維持する」です。

爬虫類脳は、過去の経験則にこだわり、新しいことに対応できません。
先祖から受け継がれた過去の記憶に満ちているからです。

言い換えると
「今までと同じことをやっておけば、安全でいられる」
ということです。

ワニやヘビが自ら高層ビルの立ちはだかる大都会に姿をあらわさないのはこの特徴があるからです。
もし、ワニやヘビが「都会に出てみよう!」と挑戦したら、敵に襲われてしまう危険性が高くなり生命の維持が危ぶまれますからね。

爬虫類脳の欲求行動

爬虫類脳は原始的な脳である故、欲求行動も短期的です。

なぜなら、爬虫類脳の目的が「生きる」ということだけに限定されているからです。

爬虫類脳の欲求行動は大きく4つです。

①食
②攻撃・侵略
③服従
④性

「食」

1つ目は「食」です。
その名の通り、食べることです。
生きていく上で食べる事は最低限必要な欲求行動です。
食料を一切取らないという動物は見たことないですよね。

「攻撃・侵略」

つづいて「攻撃、侵略」です。

攻撃の目的は2つ。
1つ目は敵から自分の身(縄張り)を守る為。
2つ目は食料確保の為です。

侵略の目的は、より安全な居場所を求めて縄張りを獲る為です。

攻撃・侵略もまた、生きていく上で欠かせない欲求行動です。

「服従」

3つ目は「服従」です。

服従する目的は「強いものに命を守ってもらいたい」為です。

ワニの生態を例にとって見てみましょう。
爬虫類は一般的に群れを成さない生体なのですが、爬虫類の中でも比較的知能が高いと言われているワニは群れを成して生活しています。
ワニの群れは多い場合だと100頭にもなる大きな群れ(組織)を形成します。
その群れの中でも縄張りは存在し、オス同士で激しい縄張り争いをします。
争い(戦い)があるということは、どちらかが勝ち、どちらかが負けます。
勝ち続けたものは群れ(組織)のトップに君臨し、負けたものは本能的にトップに服従します。

このように、爬虫類脳は強いものに服従し生命の維持を図るという特徴があります。

ちなみに、このボスワニが他の群れに攻撃されたなど、何らかの理由で死んでしまった場合、群れは不安定な状態になり、下の位のワニ達による覇権争いが生じます。
この覇権争いは長ければ数年にわたるケースもあります。

爬虫類は常にやるか、やられるか、という殺伐とした社会でいきているのですね。

もし、人間が爬虫類脳だけしか持ち合わせていなかったらと思うと恐ろしくなります。
絶えず戦争のような状態が続くわけですから。

「性」

最後は「性」です。

これは、子孫を残すことを目的にしています。

子孫を残すことがなぜ生命の維持につながるのか。
「生きる=死ぬ」
永遠の命は存在しないからです。

つまり、生命の誕生が無ければ動物は生き続けることが出来ないということです。

人間を含む動物は生命の維持を目的に本能で子孫を残すという行動をとるようになっています。
それを担っているのが爬虫類脳です。

爬虫類脳に影響を受ける人間の行動・思考

極めて原始的で短期的な欲をもつ爬虫類脳ですが、わたしたち人間にはどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
本項では5つに絞ってお伝えします。

①自己中心的(我利我利亡者)
②ひきこもり
③面倒くさがり(三日坊主)
④権力に弱い
⑤不貞行為(浮気・不倫)

①自己中心的(我利我利亡者)

全ての人間は多かれ少なかれ自己中心的な思考を持っています。
この自己中心的な思考は爬虫類脳の「命を守る」という本能が影響しています。

爬虫類脳は自分の命を守る行動を最優先させるからです。

つまり、「自己中心的な行動をしないと生きていけない」ということです。

例えば、ワニは目の前にエサがあったら我先と食します。
他のワニにエサを譲るということはしません。
自分の命が一番大切だからです。
他のワニにエサを譲るワニはみたことないですよね。

このように人間の自己中心的な思想や行動は爬虫類脳が影響しています。

ちなみに、自己中心的な思想や行動を仏教では「我利我利亡者」(がりがりもうじゃ)と言います。

②ひきこもり

「ひきこもり」は爬虫類脳の「防衛本能」が影響しています。
閉鎖された空間は外敵から攻撃される可能性が低い、つまり、命を守れる可能性が高い場所だからです。

この防衛本能は身体的な攻撃のみならず心にも対応しています。

例えば、苦手な上司とすれ違った時、何もされていないのに胸が痛むという経験をしたことはないでしょうか。
これも防衛本能が働いているからなのです。

ひきこもりの原因のひとつは過度なストレスと言われ、長期間にわたるストレスを受け続けると脳は本能的にこのままだと危険だと判断し、ひきこもりなどの身を守る行動をおこすのです。

③面倒くさがり(三日坊主)

面倒くさがりは爬虫類脳の「現状維持」という特徴に影響を受けています。
爬虫類脳は「過去の経験則にこだわり、新しいことを嫌う」という特徴があるからです。

例えば、外敵から襲われにくい土の穴など安全な住処にヘビがいたとします。
このヘビが「よし明日から見渡しの良い土の上で元気に生きていこう」なんて挑戦心をもって引っ越しでもしたらどうなるでしょうか。
鳥などの外敵から狙われてしまうでしょう。

このように爬虫類脳は新しいことに挑戦することは命を落とす危険性が高いということを本能として持っているのです。

これが、わたしたち人間が面倒くさがる原因なのです。

このおかげで人間はダイエットや勉強など新しい目標を立てても中々始められなかったり、三日坊主で終わったりするのです。

④権力に弱い

権力に弱いのは爬虫類脳の「服従」という特徴に影響を受けています。
爬虫類脳は「強いものに守ってもらうことで生命を維持する」ということを本能に持っているからです。

多くの人間が「権力者や強いものに隠れて身を守リ生きていく」というのも、実は本能的な行動なのです。
ゴマをすり権力者や強いものに取り込んでもらうという行動も生きていく上では重宝する能力です。

注:ゴマをするという行動を全肯定するということではありません。
人間が爬虫類脳に影響を受ける行動のひとつということを知識として覚えておいてください。

⑤不貞行為(浮気・不倫)

人間の浮気や不倫は爬虫類脳の「子孫を残す」という特徴に影響を受けてます。

理由は前段で述べた通りですので詳しくは割愛します。
この行動も④同様人間が爬虫類脳に影響を受ける行動のひとつという知識として覚えておいてください。

爬虫類脳まとめ

爬虫類脳は私たち人間が生きていく上で最も重要な命を守る為の行動を司る、ありがたい脳なのです。
と同時に、その目的が生きていくという事に限定されるため、人間社会では承認されにくい行動にも影響を与えてしまっているのです。

ただ、人間の脳は爬虫類脳が単独で働くことはなく、哺乳類脳や人間脳と三位一体で機能していますので爬虫類脳に影響される行動は理性等によって制御されます。

次は哺乳類脳の役割、特徴を見ていきましょう。