旅行業界の新人に「原価・見積・利益」をいつ教えるべきか

旅行会社に入社した新人に、原価や利益についていつから教えるべきでしょうか。
「新人にはまだ早い」
「まずは商品や手配業務を覚えてから」
「営業担当になってから理解すればいい」
こうした考え方もあると思います。
もちろん、入社直後から細かな原価計算や収益管理まで理解する必要はありません。
一方で私は、「旅行会社も利益を生み出すことで事業を続けている」という基本的な仕組みは、新人のうちから知っておいた方がよいと考えています。
私は旅行業界で約30年間、法人営業やマネジメント、人材育成に携わってきました。
その経験から、新人に原価や利益を教える目的は、単に「数字に強くすること」ではないと考えています。
大切なのは、自分たちの仕事がどのようにお客様への価値となり、会社の売上や利益につながっているのかを理解することです。
◆旅行には、さまざまな原価が発生する
例えば、20名のお客様から2泊3日の旅行について相談を受けたとします。
旅行を実施するためには、
交通機関、宿泊施設、食事、観光施設、貸切バス、ガイドなど、さまざまなサービスが必要になります。
そして、それぞれに費用が発生します。
旅行会社は、それらを組み合わせて旅行をつくり、お客様へ提供します。
新人にとっては、
「旅行をつくる=行程を考えること」
というイメージが強いかもしれません。
しかし実際には、
「その旅行を実現するために、いくらかかるのか」
を考えなければ、旅行商品として成立しません。
◆「売上=利益」ではない
新人のうちに、まず理解してほしいことがあります。
それは、
売上と利益は違う
という、ごく基本的な考え方です。
例えば、お客様へ100万円で旅行を販売したとします。
100万円すべてが旅行会社の利益になるわけではありません。
交通機関やホテルなどへ支払う費用が80万円かかれば、単純化すると残るのは20万円です。
そこからさらに会社を運営するためのさまざまな費用が発生します。
つまり、
売上 − 原価 = 粗利益
という基本的な構造があります。
新人に高度な会計知識を教える必要はありません。
まずは、この構造を知るだけでも十分です。
◆なぜ営業以外の新人にも必要なのか
「原価や利益は営業担当が分かっていればよい」と思われるかもしれません。
しかし私は、必ずしもそうではないと考えています。
例えば、手配担当者が同じ条件でより適切な仕入れ方法を考える。
企画担当者が、お客様への価値と原価のバランスを考える。
営業担当者が、お客様の予算に合わせながら会社として必要な利益も考える。
それぞれの仕事が、旅行の品質と収益の両方につながっています。
旅行会社の仕事は一人では完結しません。
だからこそ、職種にかかわらず、
「自分の仕事も、会社の事業をつくっている」
という感覚を新人のうちから持つことには意味があります。
◆「安く仕入れること」だけが原価意識ではない
原価を教えると、
「できるだけ安く仕入れればいい」
と受け取られる可能性があります。
もちろん、それだけではありません。
価格だけを優先して、旅行の品質や安全性が下がってしまっては意味がありません。
例えば、多少価格が高くても、
立地が良いホテルを選ぶ。
安全性や運行体制を確認したバス会社を選ぶ。
お客様の目的に合った食事や体験を組み込む。
それによってお客様が感じる価値が高まるのであれば、単純に「安い方が良い」とは言えません。
つまり新人に伝えたいのは
原価を下げることではなく、「原価と提供価値の両方を見ること」です。
◆見積は「数字を並べる作業」ではない
見積についても同じです。
旅行会社の見積書には、旅行を実現するために必要なさまざまな費用が反映されています。
だから見積を学ぶことは、単にExcelやシステムへ数字を入力する方法を覚えることではありません。
「なぜこの費用が必要なのか」
「この原価はどこから発生しているのか」
「この価格でお客様へどんな価値を提供するのか」
「会社として必要な利益は確保できているのか」
こうしたことを考えることが、見積を理解することにつながります。
見積書は、旅行というビジネスを数字で表したものと捉えることもできます。
◆新人だからこそ、シンプルなケースで体験する
では、どこまで教えればよいのでしょうか。
私は、新人であれば複雑な原価計算より、まずシンプルなケースで十分だと考えています。
例えば、「20名・2泊3日の社員旅行」を題材にして、
交通費はいくらか。
宿泊費はいくらか。
食事代はいくらか。
観光施設の費用はいくらか。
その他に何が必要か。
まず、自分たちで原価項目を洗い出してみる。
そして原価を積み上げ、
「では、いくらでお客様へ提供するのか」を考えてみる。
実際に数字を使って考えることで、
旅行をつくることと、旅行ビジネスとして成立させることは違う
ということが見えてきます。
◆利益は「会社が儲けるため」だけではない
新人に利益について話すとき、もう一つ伝えたいことがあります。
利益は、単に会社や経営者が儲けるためだけにあるものではありません。
人材を採用し、育成する。
システムへ投資する。
より良い商品やサービスを開発する。
働く人たちへ給与を支払う。
そして、会社を継続していく。
こうした活動を続けるためにも利益が必要です。
利益を生み出すことは、会社がお客様への価値提供を続けるために必要なこと。
新人の段階では、このくらいシンプルに理解してもらえばよいと思います。
◆原価・見積・利益は「仕事の全体像」の中で教える
原価だけを切り出して教えると、数字の勉強になってしまいます。
私は、
お客様の相談
↓
旅行の企画
↓
手配
↓
原価
↓
見積・販売価格
↓
旅行の実施
という仕事全体の中で教える方が理解しやすいと考えています。
「この旅行を実施するために、これだけの原価が必要になる」
「この価格で販売すると、このくらいの利益になる」
とつながれば、数字が実際の仕事として見えてきます。
そして、
お客様への価値と、会社としての利益を両方考える。
この視点は、新人だけでなく、その後どの仕事を担当するうえでも役立つものではないでしょうか。
◆新人のうちに「商売の基本」を知っておく
新人に求めるのは、すぐに利益を生み出すことではありません。
原価計算のプロになることでもありません。
まずは、
「自分たちは旅行を通じてお客様へ価値を提供し、その対価として売上を得て、そこから利益を生み出している」
という商売の基本を知ること。
そして、自分が担当する一つひとつの仕事が、その流れの中にあることを理解する。
それだけでも、仕事を見る視点は変わってくると考えています。
◆2027年度 旅行業界の新人教育をご検討の皆さまへ
Bss Consulでは、旅行会社・旅行関連企業の新入社員を対象とした「旅行業界 新人実務スタートアップ研修」を実施しています。
一つの旅行ケースを使い、
お客様の要望確認 → 旅行企画 → 手配 → 原価・見積 → 安全・確実な旅行実施
までを体験します。
原価や利益についても、計算方法だけを学ぶのではなく、旅行会社の仕事全体の中で「なぜ必要なのか」を理解することを大切にしています。
営業・店頭・企画・手配など、配属職種を問わず受講いただけます。
▶ 旅行業界 新人実務スタートアップ研修2027の詳細はこちら
◆あわせて読みたい
旅行会社の新人教育は何を教えるべき?
~新入社員研修からOJTまでの考え方~
新人教育全体を「知る → つなげる → 身につける」の流れで整理しています。
旅行会社の新人研修後、すぐOJTで大丈夫?
~配属前に学ばせたいこと~
基礎研修とOJTをつなぐ「仕事の地図」について解説しています。
新人が仕事を「点」で覚えるのではなく、「線」で理解する意味を解説しています。

